矢板市に暮らし続ける理由は人それぞれ、十人十色だと思います。
しかし、暮らし続けていても積極的な理由がない方(市内居住者)や暮らし続けることを断念する方(市外へ引越し)や暮らし始めるには弱いと判断する方(移住検討者)がいらっしゃることも事実だと思います。
「矢板には仕事がないからみんな他の地域へ通勤しているよ」「子育て環境だけではここに留まる理由にならないよ」「親や祖父母が不安を感じている」そんな声をよく伺います。
「矢板市は〇〇〇があるから、離れられないなぁ〜!」と笑顔で話す人で溢れる街に、本気でしたいと想っていますし、力を合わせれば、そうなれると想っています。
ここからはもう少しだけ具体的に以下の観点に沿って整理させて頂こうと思います。
※少し長くなります。
1.私が目指したい街の未来像(上図「VISION未来①」部分)
仕事の選択肢に溢れ、家族と笑える街(自身の原体験から)
それらが理由となって、矢板に暮らし続けるという選択をする人を一人でも多くする。
時代の変化に伴って、しなやかに、ゆっくりと、着実に進化し続ける街。
いまも、100年後も美しく、豊かな街。
矢板「で」いい、ではなく、矢板「が」いい、と選ばれる街。
独自の財源が豊かで、未来への投資がたゆまなく続けられる街。
いまと未来を支える現役世代が活力に溢れ、1mmの不安もなく働き/暮らせる街。
2.現状を維持した場合に起こり得る未来(上図「現状」、「取り組み②」、「未来②」部分)
2-1.断続的な地価の下落現象が引き起こす独自財源の縮小化という負の連鎖
矢板市に限らず、日本の地方では地価の断続的な下落が予想されています。持ち家志向、家族向け賃貸の不足、中心部の住宅土地流動性の低さ、農地転用ハードルの低さ、生産緑地法30年縛りの2022年移行順次解除などにより、居住地の郊外化や人口密度の希薄化など(スプロール現象)に拍車がかかることが予想されています。
数十年単位で農業エリアに染み込む形で居住エリアが順次拡大し続け、中心街の空洞化が進み、人口密度が減少する傾向は矢板に限らず全国共通の現象であり、地価の下落の要因の一つです。地方の地価の下落傾向とは、地方自治体の最も重要な収入源の一つである固定資産税の減収や、地銀の弱体化による地域経済への悪影響、個人資産の目減り(資産デフレ/逆資産効果)による更なる不動産流動性の低下を引き起こすことが考えられます。
また、製造業をはじめとしたビジネスの国際分業やグローバル化の流れを受けた生産拠点海外シフトも地方の地価を更に下振れさせる要因となり得ます。矢板のシャープ工場撤退はこのような潮流の典型事例に思えるのです。グローバル化や生産コスト削減を目的としたこれまでの主に中国への移転の潮流に加えて、昨今、新興国の巨大な消費市場を取り込む狙いから生まれている生産拠点移転も更に拍車をかける可能性があります。
もちろん、社会全体の人口減少も要因だと思います。都市集中型社会と言われて久しいですが、都市部に人口が密集し、地方から人財が減っていく傾向は、コロナによって一時緩和されることが期待されました。しかし、東京や大阪へ1時間程度でアクセスが可能なエリアへの転出が主だったものに留まり、コロナによってリモートワーク等の加速推進が進みましたが、地方の人口現象問題が解消するレベルとは程遠い現状にあるように思います。これは私の身の回りでも見事に当てはまり、都心へ1時間以内で到着できるような範囲内に同世代の仲間たちは引っ越していました。
地方自治体の税収の大半は固定資産税と市町村税ですが、地価の下落は固定資産税を、製造業の生産拠点移転は市町村税をも下げる要因となり得て、矢板市を含む地方自治体にとっての独自財源の減少傾向は継続すると思われます。独自財源が減り続けるのを指をくわえて眺め続けることは、まち独自の強みや課題を踏まえた魅力度向上施策などへの投資可能性は減り続けることを意味しているのではないでしょうか。
2-2.処方箋としての公共事業や単発の人口増加作戦
主に中国への生産拠点移転等が進んだ時代には、国内生産拠点の地方移転促進や、地方での公共事業などを通して、地域の雇用を確保する流れがあったようですが、国内で生産拠点を移転する可能性は以前より減ることが予想され、公共事業にも限界点を超えて既に減少傾向が続いて久しいと思います。
また、子育て環境の強化や、移住支援への政策的注力だけによって、人口減少に歯止めのみならず人口増加だって夢ではないという現状の地方自治全体に関する論調には、疑問を感じています。それらだけの政策だけへの注力ですべての地方自治体が上昇局面に突入するほど現実は甘くなく、ここには地理的な特徴が密接に関わってくると思います。
その人口増加はそんな簡単に成し得るものではなく、また子育て支援がリッチであるからと言ってそれだけで引っ越す理由にはなり得ないのは東京在住で子育て世代であった私も当事者として体感するところであります。
また、子育て支援や移住支援等などの多くは国の財源であり、それらを実行するだけでは、他の自治体との差は埋まる一方であり、「均一的でどこにでもある自治体」へ向かう一方であると感じます。
2-3.中長期的に見た他市町との合併政策の可能性
長期スパンで地方自治体を眺めれば、人口密度が低い居住エリアへの分散居住の状態が続けば、広域にインフラを確保/整備し続けることが「非効率的」であるという意見が生じることも考えられます。各エリアでの地方都市機能の分担や広域連携の延長線上として、行財政やインフラの効率化が最適解となることを背景にして、近隣自治体と合併もまた十分に想定されるのではないでしょうか。
これまで述べてきたような日本の地方都市が飲み込まれている大きな潮流は理解しつつも、長期的なビジョンに沿った小さな経営努力を中長期的に積み重ねることで同じ境遇にある日本の他地域よりも豊かな暮らしを実現できる可能性は必ずあるはずであり、その努力や試行錯誤の過程は他地域への光になることも可能であると考えます。
3.どんな領域に注力するべきか(上図「MISSION取り組み①」部分)
自身の原体験から想う未来の街のイメージから、取組み領域に因数分解すると以下と考えます。
①仕事の選択肢に溢れ(成長する地域経済)、
②暮らしやすいまちであり、
③その結果として人口/婚姻/出生/税収等に繋がり、
④更なる未来への投資を考案し実行する
③については結果指標であり、④については次なる①と②であるので、以下に①〜②の具体を整理したいと思います。
未来のために「成長する地域経済」へ注力し、いまを大事に「暮らしやすさの充実」へ注力するべきであると考えています。これらは、どちらか片方だけでは不十分であり、両輪での推進をまっすぐに行うことが、短期的にも長期的にも重要であると考えます。「仕事が豊富にある豊かな地域経済と家族みんなが笑って安心して暮らせる環境」を目指すことが「選ばれる矢板市」に繋がります。
このサイクルが有機的に循環することで、「暮らし続ける理由」となり得ると考えます。
3-1.仕事の選択肢に溢れている状態とは?(下図)
現存する産業/事業は、「成長」「再建」「継承」。現存しない産業/事業は「多角化」「起業支援」「誘致」。良いものや良くなりそうなものはともに伸ばし、歩留まり高く残す。芳しくないものや芳しく無くなると予想されるものは時代に合わせて変える。そんな勇気をもった挑戦やうねりを、民官一体となって作り出す挑戦をすることで、強い地域経済を目指します。VUCAの時代は(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))、これといった最適解は見えにくいものであると言われています。目まぐるしく変化する国際情勢や経済環境を注視し、変化対応、仮説検証をどれだけスピーディに行えるかが勝負だと思っています。
3-2.暮らしやすい街とは?(下図)
私たち現役世代の願いは、仕事にやりがいを感じながら、家族と一緒に笑って過ごす日々だと思います。家族と笑える状態とは、「現役世代にとって」「子供たちにとって」「おじいちゃんおばあちゃんにとって」と分けることができ、それぞれが暮らしやすいと感じる総和が、家族で笑うという状態に繋がると考えます。
現時点で、上記の<強い地域経済><暮らしやすさ>を構築するために、注力したいと思う領域を下図にまとめてみました。しかし、これはあくまで現時点での視界であり、これから上記のような方向性を目指す中で私自身も勉強をし、皆さんからお教え頂き、ご意見を頂く中で、どんどん磨いていきたいと考えています。
4.生み出したい循環
一次、二次、三次のすべての産業が盛り上がりを見せ、時代に即した変化や進化を遂げる。そうすれば、現役世代にとっても魅力的な仕事が増える。それと同時に、現役世代が暮らしやすいまちづくりをやり遂げる。すると、矢板に通う人が生まれ(関係人口)、矢板に住む人が生まれる(定住人口)。企業からの税収に加えて、定住人口増加も矢板市としての収入増加につながる。その収入を、仕事づくり、暮らしやすいまちづくりに再投資する。
けれど、予測不可で多種多様な環境変化に直面するとも思います。七転八倒、試行錯誤、仮説検証を繰り返し、小さな一歩を踏み出し続ける、そんな泥臭い歩みを絶やさなかった街だけが、人口や出生や財源や地価などの好転を手にするのだと思います。
結果がすぐに出るような短絡的な特効薬や分かりやすい最適解はもうないのかもしれないとも思います。だからこそ、時間をかけて目指しどころを見誤らず、好循環を生むことに邁進できる政治が重要だと考えます。